パチンコホールのM&Aで成功するために 最終回
売り手必見！好条件での事業売却成功のコツ
文＝奥野倫充（船井総合研究所 上席コンサルタント）

船井総合研究所でホールに特化したM&Aを手掛ける奥野倫充氏が提言するコラムの最終回は、売り手が知っておかなければならない好条件で事業を売却するコツです。


プレミアムの「営業権」がつく
物件の特徴とは

2021年下半期以降、パチンコ事業売却の相談がさらに増加しています。多いときには1週間で3件以上の新規の相談があります。多くのパチンコ事業売却の相談のなかで、どちらかというと売却希望の法人様の間で情報格差があると感じています。できる限り好条件で売りたいと思われるのは当然ですが、好条件で売却するためには、知っておかなければならないコツがあります。

最も大きな情報ギャップは「営業権」に関する価格設定です。パチンコ事業のM&Aは買い手有利の市場であることは言うまでもありません。それでも売り手からは「営業権」設定に関するご相談が多いのが現実です。その「営業権」に関して参考にしていただきたいのが次の2点です。

①同業他社（パチンコ→パチンコ）への売却成約は10店舗のうち2店舗前後であること。
②退店物件10店舗のうち約5店舗は廃業していること（再活用できない）。

要するに「営業権」がつく物件は10軒中2軒程度で、かつ再活用できる物件は全体の5割程度。約半分は再活用できずに廃業となるので、「営業権」がつくケースは少ないとご理解ください。

ただし、そんななかでもプレミアムの「営業権」がつく物件があります。それが次の2つのケースです。

①（現在の業績は不調だが）総台数増台の余地があり、増台後に大幅な業績の向上が見込める物件。
②周辺の競合店が少なく、台当たり人口が多い物件。特に用途地域において競合店が出店できない物件はプレミアムが付きます。

①は設備投資次第で地域一番の大型店になれる物件です。
②は大型店の魅力は追求できませんが、オイシイ営業が長く続けられる可能性がある物件です。

ちなみに、M&Aに慣れた買い手候補はこのあたりの見極めが非常に上手です。素早く業績試算を行い、売り手にとって納得感がある条件を提示されている印象があります。

プレミアムの「営業権」がつく
買い手候補の特徴

買い手候補によっては、プレミアムの「営業権」をつけてくれる場合もあります。最もプレミアムをつけてくれる可能性が高いのは、近隣の競合店です。「営業権」の提示金額には自店の業績を守ることも含まれるため、売主にとって魅力的な経済条件が提示されることになります。情報漏洩が心配なので慎重な打診が必須ですが、売主サイドとして最も「営業権」が評価されるのは競合店であることを押さえていただければと思います。

一方、売却希望の売主に対して、買い手候補が賃貸での条件を提示するケースもあります。そのときの諸条件は、客観的に見て売主には魅力的な諸条件になることが多いです。ただ、即金ではないのが売主のデメリットになりますので、売主としては売却と賃貸の両方に応じられる条件提示を準備するのが賢明な対応方法になります。

ただ、いずれの場合も売主における「営業権」の試算は、買い手目線で整理することが必須です。買い手が引き受けた場合にどれくらいの営業利益を出せそうかを、売主はしっかり試算することが重要です。根拠がなく欲張った経済条件を提示する売主は、それだけで買い手候補が離れていきます。そして、非常識な売主はすぐにうわさが広まってしまいます。M&Aは買い手有利の市場ですから、売り手としてはその認識を持って「営業権」を試算していただければと思います。

経済条件試算の目安は約2週間

最後に買い手候補に向けたご提案です。話を進めたい案件の場合、初回の情報提供から経済条件の提示までの有効期間は約2週間とご理解ください。特に有望物件は手慣れた買い手候補がスピード感を持って決裁されます。おかげさまで多くの買い手候補様とやり取りさせていただく機会がありますが、各社様において決定的に違うのは、金額差ではなくスピードの差です。買い手候補は、そのあたりを踏まえて対応する必要があります。

船井総合研究所では、売り手様と買い手様の双方にご満足いただける支援を心がけています。もしお悩みのオーナー様がいらっしゃいましたら、気軽にご相談いただければ幸いです。

おくの・のりみち
株式会社船井総合研究所 第三経営支援本部 レジャー＆スポーツ支援部　上席コンサルタント
全国のパチンコホールの経営支援に実績を持ち、近年ではホールに特化したM&Aで多数の実績を持つ。現在、近年に新規出店やM&Aの実績があるホール経営企業約50社と密にコミュニケーションを取り、売却希望の企業とマッチングを図っている。