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2022年10月17日
No.10003088

パチンコホールのM&Aで成功するために 第3回
大手法人がM&Aで実現したいこととは?
文=奥野倫充(船井総合研究所 上席コンサルタント)

大手法人がM&Aで実現したいこととは?
奥野倫充氏

船井総合研究所でホールに特化したM&Aを手掛ける奥野倫充氏が提言するコラムの第3回目。今回は大手法人と中小法人それぞれのM&A戦略の時流を読み解きます。


これから出てくる
大型店M&Aの時流


前回に続いて大型店のM&Aという時流についてです。多店舗展開するホール経営法人が、管理上非効率なエリアにある大型店や経営効率の低い大型店を他社に譲渡して、自社の得意なエリアで経営効率が良いと見込める物件のM&Aに資金を投資していくという時流です。こうした事業譲渡は今後、後ろ向きの経営判断ではなく、非常にクレバーで長期視点に立った戦略に変わっていくと考えています。

その根幹にあるのが、特定エリアにおける「独占シェア獲得」の発想です。特定エリアとは、クルマで15~20分の商圏が最小単位ですが、それより広域なエリアで独占シェアを狙っている法人もあります。

特定地域における価格主導権を握れること(機械代や粗利率のコントロール)が最大のメリットです。レッドオーシャンの争いから抜け出せる独占支配エリアをいくつ持てるかに争点が移っていくと見ています。自社の経営効率や事業領域を整理した中で、M&Aという手段をどのように有効活用していくか。それがこれからのM&Aの目的になり、より前向きで、戦略的なM&Aが加速していくと考えられます。

先日、某大手法人の開発部長と意見交換する機会がありました。その開発部長がこんなことを言っていました。

「EBITDAで2億円程度出せる物件を社長が現地見学したところ、B級と評価するんです。そこそこの利益は見込めても投資回収は10年前後。それでは経営者としておもしろくないと」

その法人は明確な出店数の目標があるのでB級も狙っていくとのことでしたが、社長が狙っているのはS級、A級。EBITDAで3億、4億、5億円と見込める物件ならば、無理をしてでも獲得したい。そんな意向があるとのことでした。

開発部長の意見は、大型店の新規出店をする法人の心境を物語る最大公約数と思えます。ただ、ここで大事なのは、S級、A級狙いの出店戦略とするか、もしくは「ヒットの延長上がホームラン」という発想で、B級から新規出店を重ねていくかという選択だと思います。

ただ、いずれにしても投資回収は長くなってしまいます。S級、A級はより一層巨額の投資で獲得することになるでしょうから、回収年数が長くなる。B級は建築コストなどが改善できない限り投資回収は長くなる。したがって、来年以降は大型店同士の戦いも本格的な消耗戦になっていくと思います。

独占シェア獲得が困難な
中小法人のM&A戦略


大型店同士のM&Aが出現する中、ますます増加しているのが中小規模店舗の撤退物件です。撤退物件とはいえ、中小店舗の事業承継は割安で獲得できるメリットがあります。レバレッジが効くのはどちらかというと中小店舗のM&Aです。ここには特定エリアの独占シェア獲得という戦略を選択できない法人が、パチンコ業界で生き残る余地が十分あります。

ちなみに、弊社が関わった中小店舗のM&A事例では、割安で取得された店舗で業界随一の薄利営業を継続。また、大型店の入れ替え競争とは異なる差別化路線を模索。例えば、約半年間新台入替(中古機含む)をゼロにすることで稼働を約2倍に伸ばしている事例もあります。業界随一の薄利営業を続けていても着実に月粗利は増えている。そんな実績が出せるのは、割安で取得できる中小店舗のM&A戦略ならではです。

パチンコの撤退物件は10軒のうち2軒程度しか同業他社に承継されません。過去5年間の実績を集計すると、10軒中約5軒は廃業です。残りの3割は他業種への転換となります。ただ、10軒中約5軒の廃業店舗のうち、自社の取り組み次第で再生できれば、これが最もレバレッジが効くと思います。そして、案件数も大量です。このM&A戦略もぜひ狙っていただけたらと思います。

おくの・のりみち
株式会社船井総合研究所 第三経営支援本部 レジャー&スポーツ支援部 上席コンサルタント
全国のパチンコホールの経営支援に実績を持ち、近年ではホールに特化したM&Aで多数の実績を持つ。現在、近年に新規出店やM&Aの実績があるホール経営企業約50社と密にコミュニケーションを取り、売却希望の企業とマッチングを図っている。




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