特集　企業を成長させる人材育成（後編）
いまこそ「基礎力」を見直すべき

パチンコ業界は何をすべきなのか？

「業績を改善できない企業の多くは、『答え依存症』に陥っている。与えられた『答え』は未来を創らない。自分たちで模索した最適解こそ会社の未来を創るのです」
月刊アミューズメントジャパンでコラムを執筆している第二営業部の堀川和映顧問は、業界の状況をこう指摘する。

「業績を上げるための特効薬的な施策を求めてセミナーに参加したり情報を集めたりして、仮に、『これだ！』と思えるものに出会ったとしても、考えることをしなくなります。自分で考えなくなるので、似ているけれど細部が異なる新たな問題に突き当たったときに、自分では問題を解決できません。そのストレスを避けるために、そのつど答えをくれる人を求めるようになるのです。これが『答え依存症』をつくりだします。会社は、自分で考える社員を育成する必要があります」（堀川顧問）

仕事をしていくなかで必要となるスキルは、例えばパチンコホールの店長としての職務を遂行するために欠かせない、業界に特化した専門的な知識や技術、分析力などの「テクニカルスキル」と、論理的思考力やコミュニケーション能力、問題解決能力やプレゼンスキルなどの「ポータブルスキル」に大別される。「持ち運びが可能」という意味のポータブルスキルは、職種の専門性以外に、業種や職種が変わってもそこで転用・応用して生かすことができるスキルで、「トランスファラブルスキル」とも呼ばれる。厚生労働省はこのポータブルスキルを、①仕事の仕方、②人との関わり方の2つから構成されるとしている（表を参照）。

これらは特定の業種や時代背景に捕らわれないため、「ビジネス基礎力」とも表現される。デジタル化への対応、AI活用といった時代の先端をキャッチアップすることも、業界環境の変化を察知することも必要だが、環境変化が激しく正解がひとつでない状況では、店長には、上層部も部下も納得する答えを導き出してチームをまとめることが求められるはず。そこで必要となるのは、ポータブルスキルだ。

業界や職種ごとの専門スキルもそのほとんどは、職務に活かすためにポータブルスキルを必要としている。なぜなら基礎力なしには応用できないからだ。仮にポータブルスキルが脆弱にもかかわらず、管理職や上位の専門職に就いているとしたら、きわめて特殊な能力を持っていたか、運が良かったのかもしれない。

アミューズ・ファクトリーの宮川雄一代表は、ホールの経営支援、営業支援に関わる中で、「現状の把握」、「課題の設定」、「社内対応」、「部下マネジメント」の底上げの必要性を感じることが多いと言う。
「現状把握が弱いケースは珍しくありません。当然ながら現状把握の精度が低いと、課題設定を間違えます。するとどうなるかというと、『間違った課題』を『正しく解決』しようという現象が起こります。これでは仮に一丸となって施策に取り組んだとしても、業績向上につながる良い結果は期待できません」（宮川代表）

フリコユラスの吉田真晃代表も、「現場を預かる責任者が経営陣と目標を共有するためには、『現状の把握』と『課題の設定』の高いスキルが欠かせない」と指摘する。
「なぜなら、目標を提案するには『なぜ？』に応えられるエビデンスが必要で、エビデンスは精度の高い『現状の把握』によって得られるものだからです。そもそも、計画立案能力も課題遂行能力も、『現状の把握』と『課題の設定』ができた上で研磨されるスキルです」（吉田代表）

一方で、そもそも進めたい戦略や戦術を持っていても、それが理解されず採用されないこともある。
「提案が受け入れられないのは、多くの場合、理論的もしくは論理的な根拠がなく、精神論で主張しているからです。つまり、『社内対応』のスキルの不足です。また仮に、戦略や戦術が適切で、それを実行に移すことになったとしても、現場が実行力不足では成果を出せません。この原因は多くの場合、『部下マネジメント』ができていないのです。取り組みを行う理由の説明が不足したまま現場に指示を出していると、現場に納得性が欠けていたり、やらされ感が蔓延したりするのです」（宮川代表）

人材育成は即効性がない。長期的視野を持ち、基礎力の底上げに取り組んだ企業だけが生き残ることになるのだろう。　




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