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2022年01月12日
No.10002604

【特集】マンガのチカラに迫る④
心が軽くなるパチンコマンガです
INTERVIEW 漫画家 若林稔弥さん

わかばやし・としや 1987年4月11日生まれ。25歳でプロデビュー。別冊少年マガジンと週刊少年マガジンで連載された『徒然チルドレン』は2017年にアニメ放送された。Twitterで32万いいねと12万リツイートを叩き出した『幸せカナコの殺し屋生活』は既刊5巻で継続中。趣味はパチンコと、勝てるようにと始めたタロット占い。スキル習得の早さは馴染みの占い師が舌を巻くほど。

漫画家の若林稔弥さんは、遊技業界に灯る希望の光だ。マンガ単行本『ぱちん娘。』(星海社)を2021年3月に発刊。主人公であるOL・あおいの“ダメかわいい”パチンコライフが読者の心を掴み、パチンコに関心を寄せる人を増やしている。[文中敬称略]

──『ぱちん娘。』の単行本化、おめでとうございます。発刊までの経緯を教えてください。
若林 「DMMぱちタウン」さんで連載しているWebマンガの話数がたまったので、付き合いがあった出版社さんに書籍化してもらいました。DMMさんでの連載は、2020年7月7日からスタート。基本的に毎月7の付く日に更新しています。連載が始まったきっかけは、僕がTwitterで『ぱちん娘。』を初公開したら、担当さんが早々に見つけてくれて。「うちで連載しませんか」とオファーをいただきました。ほかの媒体での連載も選択肢としてはありましたが、パチンコ専門媒体であることや、漫画誌では本の売上次第で作品が短命になってしまうので、DMMさんに決めました。

──なぜパチンコマンガを描こうと思ったのですか。
若林 2020年春の緊急事態宣言でパチンコ屋さんが一斉に休業してしまい、パチンコを打てない日々が続いたからです。打てないならマンガの中で打てばいいじゃない、打てないフラストレーションはマンガを描いて発散しようみたいな感じです。ただ、内容を思いついたきっかけは、たまたま隣で打っていた知らないお姉さんでした。お姉さんの台でかなり熱い演出が始まったので、「やったね、おめでとう」と思いながら横目に見守っていたんですね。それで最後の当落告知ボタン。お姉さんはハズレを疑わない様子で強気にボタンをダーンと押したんですが、プスン…って。「これってハズれるんだー!」と思いながらチラ見すると、お姉さんの首がガクーンとうなだれて。その姿を見た瞬間、「おもしろーい!これはマンガになるかもしれない」とネタにすることを決めました。

──若林さんはパチンコをよく打つんですか。
若林 2019年の大みそかからです。久しぶりに会った友達に誘われて、「大みそかなのにマジかよ」と思いつつ、行きました。僕はそれまでに1回しか打ったことがなくて、それほど乗り気ではなかったんですが、大みそかにパチンコする人ってどんな人だろうって興味が湧いて、ついて行きました。そしたら店内にいたのはだいたいがお年寄り。「ああ、この人たちは大みそかなのにほかに行くところもなく、一緒に過ごす家族もいないから、ここで寂しさを紛らわせているんだな」って勝手に思って納得していました。この日の結果は、友達に言われるがままに打ってちょっと勝ち。ふーんなるほどね、なんとなく楽しさは分かったかな、という感じで終わりました。

──それから一人で行くように?
若林 年が明けて、近所のパチンコ屋さんにふらりと行ってからですね。そのときの結果は負け。勝ったときは次も行くぞ!みたいな気持ちは湧かなかったんですが、負けてみると次は絶対勝とう!ってヤル気が湧いて。「ああ、なるほど。こうやってみんな引きずり込まれていくんだ、こえー」と思いながらも、でも頭を空っぽにするにはちょうどいい遊びかなとも感じました。僕はほかに趣味がなくて、仕事以外の時間を持て余していたんです。パチンコはゲームと違って、練習する手間もなんの準備もいらない。ハンドルを握るだけで難しいことを考えずに遊べる。これなら僕にもできるかなって。パチスロは頭を使うし、目押しが苦手ですね。でも趣味として始めた矢先に緊急事態宣言になったので、『ぱちん娘。』を描くようになりました。

──ホールに入店することに抵抗感はありませんでしたか。
若林 友達について行く前までは、とても抵抗がありました。うるさいし、たばこ臭いし、お客さんはみんな殺気立っているんじゃないかって。でも1回入ってみると、どういう場所か分かった。店内はだいたいがお年寄りだし、そんなに怖がる必要はないんだなって。たばこのニオイは家に帰ってすぐにシャワーでしたが、原則屋内禁煙になってからは快適。今ではほぼ毎日、仕事の合間に打っています。お店選びは回りそうかどうか。回っても当たらないことがあるんだから、毎日優しくしてよって思います。それと近所のお店はほかのお店よりも割が低かったんです。しばらくしてからそれを知って、今ではバスに乗ったり、電車で2~3駅移動して別のお店に行っています。台選びは「台が僕を呼んでる」気がしたら。ミドルでも甘でも、珍しい台でもなんでも打ちます。

──家族の反応はどうでしたか。
若林 妻は最初、めちゃくちゃびっくりしていました。「そんなことをする人じゃなかったのに」とか「悪い友達と付き合ったばっかりに」って。妻はパチンコのパの字も知らなければ、むしろ嫌っている側の人でした。僕が『ぱちん娘。』を描くようになったのは、若干の負い目を感じていたせいかもしれません。パチンコ屋さんに行くことを仕事の一環にしてしまえば、少しは言い訳が立つのかなって。僕はマンガづくりを妻に手伝ってもらっている部分もあるので、『ぱちん娘。』を恐る恐る見せたときの反応は、「なるほど。私はやりたいと思わないが、お前の気持ちは分かった」でした。DMMさんで仕事が決まったときも「分かった。しかし家ではパチンコの話をするなよ」と。でも連載が進み、何度も見てもらうようになってからは、だんだん『ぱちん娘。』をおもしろいと思ってくれるようになり、今では家でパチンコの話をしても嫌がらなくなりました。良かった、良かった。

──『ぱちん娘。』を描くときに注意していることはありますか。
若林 打ったことがない人でも楽しめるパチンコマンガを目指しています。連載を始める前に、過去のパチンコマンガをいくつか読んでみましたが、どれも打っている人でなければ分からない内容が多いように感じたんです。機種の演出をマンガで再現しても、おもしろさはそこまで伝わらない。それよりもパチンコをしてどんなことを感じたとか、勝って嬉しい・負けて悔しいとか、人の感情を描くほうが楽しいんじゃないかなって。だから誰でも楽しめる内容を心掛けています。

しょうもない遊びだけど秒でハマりました!

『ぱちん娘。』で描きたいこと

──誰でも共感できる内容が、人気の理由なんですね。
若林 パチンコって多くの人にとっては、不要不急の遊びでしかないと思うんです。本当にしょうもない遊び。だけど、この遊びでしか到達できない人間の心理、感情の境地みたいなものもありますよね。だからそれをありのままに、美化させずに描いています。作中では「パチンコはくそゲー」とか、「やめたいならやめたほうがいい」とも普通に描きます。だってそのほうがリアルですもん。実際のパチンコファンだって、「パチンコ最高!いぇーい!」って言う人より、「パチンコって本当ダメ」って言う人のほうが多いじゃないですか。Webの掲示板も不満だらけ。以前、良いパチンコ屋さんってなんだろうと思ってググったら、どのお店のレビューもひどいものでした。どうやらこの世に良いお店なんてないらしいです。じゃあ、良い台ってなんだろう。なるほど、良い台というものもないらしいぞと。ファンはみんな同じように感じていて、でも打っちゃうのがパチンコなんだと思います。

──作中では「クズ」がパワーワードですね。
若林 僕は自分がパチンコをやるようになる前まで、パチンコを打つ人はみんな、ろくでもない人たちだと思っていました。東日本大震災のときだって、あんな大地震の翌日なのにパチンコ屋さんは普通に開いて、朝から並ぶ人もいた。彼らを見て「本当クズ」って思っていました。もしも僕がこのテンションのままコロナ禍を迎えていたら、“県外遠征”する人に冷めた視線を送っていたでしょうね。でも今の僕には、不安なときにこそ打ちたくなる気持ちが分かる。パチンコ屋さんがバッシングされる理由は、パチンコ屋さんがどういう場所なのか、中にいる人たちがどういう人たちなのかを、知られていないからなんだと思います。確かに台を殴る人や喚く人はたまにいます。でもほとんどの人は黙々と打ってるじゃないですか。怖い世界でもなんでもなく、実に平和。お店の人だって、みんな普通の人です。無責任にバッシングする人は、イメージの悪さが先行して、同じ人間だって忘れているみたいですよね。

──読者に伝えたいことは何ですか。
若林 一番描きたいことは「しょうもなさ」です。パチンコもパチンコをする人も、本当にしょうもない。でも1日の最後に「楽しかったからしょうがないかー」って笑えたら、すごく安心できると思いませんか。心が軽くなるはずです。僕は自分が打つ前まで「パチンコになんてハマらんぞ」と思っていましたが、いざやり始めたら秒でハマった。それから自分のことを「しょうもない人間だなー」と思い始めるようになりました。それを認めてからというもの、世の中のいろいろなことに怒らなくなった。「理不尽な人も自分も、みーんなしょうもない」と思えたら、怒る気なんて失せませんか。そんなことよりパチンコ、パチンコって。『ぱちん娘。』の主人公たちも、いろいろとしょうもない行動をします。でもそうしたしょうもなさは、みなさんも自分の身に覚えがあるはずなんです。現実のSNSではみんな、意識高そうに振る舞って、意識高い意見をぶつけ合っています。でもちょっと待って。そんなに怒らなくていいんじゃない?だってみんなしょうもなさってあるんだから。「しょうもなさを自覚して、人生を笑って過ごしましょう」みたいなメッセージを受け取ってもらえればいいなと思っています。

第11話のワンシーン ©若林稔弥/DMMぱちタウン/星海社

バズるには理由がある

──若林さんはTwitterのフォロワー数が多いですね。
若林 おかげさまで29.4万人を数えます。Twitterは2010年から始めて、新作マンガをちょくちょくツイートしていました。今でこそSNSやイラスト投稿サイトで新作をお披露目することは一般的になりましたが、僕は早いうちからやっていた一人です。Twitterは「いいね」や「リツイート」の数で反応がすぐに得られるので、ネタを続けられるかの判断材料になります。『ぱちん娘。』にも相応の手応えを感じたので、自信をもてました。最近はパチンコ屋さんでもアイドル店員さんが増えましたよね。「会える」と「勝てる」は別モノだと思いますけど、店員さんと親しくなれるのはちょっといいなと思います。

──現在も執筆中の『幸せカナコの殺し屋生活』では、32万いいねと12万リツイートを記録。バズらせる秘訣は何ですか。
若林 拡散されるかは、最後は運なのでなんとも言えませんが、僕はどのマンガにも、強い感情を喚起させるようなシーンやセリフを毎回つくっています。それこそ『ぱちん娘。』の「光のクズ」とか。そしたら読者は感想を言いたくなるじゃないですか。僕は経験則で、共感できること、意外性があること、有用性があることがSNSマンガには大切だと思っていて、「ここのポイントで1万人、こっちのポイントでプラス1万人が反応するかな」みたいに計算しています。それで反応を見ながら「良し良し」とか「ちょっと外れたな」とか。今の『ぱちん娘。』では「クズ」や「百合」のウケが良いので、意識的に盛り込むようにしています。

──遊技業界とはどのように関わっていますか。
若林 『ぱちん娘。』で打っているシーンは基本、取材に応じていただいたパチンコ屋さんで写真を撮らせてもらいますし、筐体もできるだけ正確に描写して、メーカーさんに許諾を得ています。特に出版する場合は、権利関係を明確にしないといけないので。ほかには実機アプリのPRマンガを描く、なんてこともしました。新台関係のお仕事はまだないですね。可能性としては導入のタイミングに合わせて、マンガの中でフィーチャーする回をつくれそうかな。あとは『ぱちん娘。』のキャラクターを使って何かとか。『ぱちん娘。』がアニメやドラマになったら、タイアップ機ができるかもしれませんね!

※この記事は『月刊アミューズメントジャパン』(2021年9月号)に掲載したものを転載したものです。


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