特集記事

特集記事内を

2023年02月28日
No.10003291

特別対談
これからのホールづくりを語ろう

これからのホールづくりを語ろう

オオキ建築事務所
大木啓幹 代表

ニューギン・アドバンス
金海晃和 代表


スマートパチスロの登場でようやく今後の方向性が可視化されてきた遊技産業。新しい遊技機の登場で今後の店舗づくりに向けてさまざまなアイデアが湧き出てきている。新しい時代にパチンコホールはどう変わっていくのか。数多くの繁盛店を手掛けてきたオオキ建築事務所の大木啓幹代表と、設備機器などを幅広く手掛けるニューギン・アドバンスの金海晃和代表が語り合った。(文中敬称略)


──2022年12月末、福島県いわき市に『ビックつばめ平店』がグランドオープンしました。スマスロ登場直後の新店ということで注目を集めています。その設計を手掛けたのがオオキ建築事務所さんで、島設備を担当したのがニューギン・アドバンスさん。今日は両代表に、ホールづくりはこれからどう変われるかをテーマにお話をしていただければと思っています。

大木 パチンコ・パチスロの遊技人口が減っていく中で、業界は変わらなきゃいけないと何年も言われてきて、そこにようやくスマート遊技機が出てきた。これからはパチンコの島のあり方もかなり違ってきますよね。私は21歳から4年ほどカリフォルニアの大学にいて、ネバダ州のカジノによく行っていました。当時は賭博場のようなカジノでしたが、約30年前にスティーブ・ウィンがラスベガスにミラージュというエンターテインメントやMICE機能を備えたカジノホテルを作り、低迷していたラスベガスの街に活況をもたらしました。決してブラックジャックやポーカーの遊び方が変わったわけではない。空間のあり方を変えたのです。パチンコ業界もスマート遊技機によって、エンターテインメント化された施設に生まれ変わるチャンスだと思っています。

金海 そのためにまずは、スマート遊技機の普及でお店が変わっていくことを伝える必要がありますよね。新しいファンや休眠層、コロナで遊技をやめてしまった人に対して、遊技機以外の価値を感じていただかなくてはなりません。そういう意味では、今回の『ビックつばめ平店』の店舗デザインはすごいですね。天井に花が咲きほこって、島と天井に一体感がありました。外観も心惹かれるものがあり、いわき市という地域によく合っていると感じました。

『ビックつばめ平店』(福島県いわき市)の外観

大木 それが一番なんです。地域と共生していることが。これまでこの業界は、遊技機のスペックを上げて面白さを追求してきたわけですが、一方でパチンコをやらない人にとっては、お店の中で何をしているのかがわからない、ある意味で恐さがある施設になってしまったんです。だからこそ、業界が復活を遂げるには、そこにパチンコ店があることが嫌だと感じられないお店づくりが大事なんです。

金海 当社グループでは直営のホールを経営していますが、店づくりに関しては好感を持っていただけることを心がけています。その施設を見た人の記憶に残してもらうことがすごく大事なんですね。

大木 それが空間の力です。例えば空気がキレイだと感じさせたり、照明の照り返しでお客さんの顔色を変えたり。照明には肌温度というのがあって、カクテル光線の色によって顔色が青白く見えたり、赤く見えたり、健康的に見えたりする。その効果を上手く使うことで、お客さんが半分しか入っていないのに盛況感を出すこともできます。そうしたことの積み重ねで、お客さんの気持ちが高揚する空間ができるんです。

金海 光でそれだけ変わるんですね。ほかにも店舗づくりの基本はありますか?

大木 店内の動線も重要です。例えば、野球は1塁、2塁と左回りですよね。陸上競技も左回り。これを逆にして、右足を軸にして左足を蹴るとスピードが上がらないんです。人間は大きな道だと左に寄る癖がある。不特定多数の人が使う商業施設では、その人間の癖を踏まえた設計が必要とされます。それをわかっていないと、ホールで言えばお客様が付きづらい島ができてしまう。逆にわかっていれば、人が行きづらい場所にトイレや休憩コーナーを作って無理矢理行かせるようにできる。そうするとある程度まんべんなく人が店内を回遊してくれるんです。

金海 今後スマート遊技機時代になれば、玉もメダルも1台の中で自己完結するので、どういう島にもできるようになります。私どももホール様からどういうふうになるかと聞かれるんですが、正直、広がりがあり過ぎて現時点で答えは出ていません。

大木 私が設計したベトナムのカジノでは、フロアの床を二重ピットにして、どこからでも配線が出せるようにしています。世界のゲーミング業界では、パチンコの島のように連結しているものはないんです。だから自由にマシンのレイアウトを替えられて、そのマシンを長く使えます。それがどこまでできるかですね。私が子どもの頃のパチンコホールは、固定椅子はなくて立ち島でした。それが座り島になって、無理矢理座らされている時代が長く続いています。椅子の位置や高さもその頃の寸法がそのままで、ほとんど変えていない。30年前と今では人の体格も違うし、女性客も増えた。スマート遊技機で島のあり方が変わるのであれば、こうしたこれまでの業界の常識に捉われずに、店側がお客さんに作業をさせるような遊び方は改善した方がいい。もっとお客さんがゆったりと遊べるような遊技空間になるといいですよね。

金海 電源や配線をどうするか。そこが解決すればメリーゴーラウンドみたいに島を動かすとかいろんな発想を具現化できます。こうした未来の話は、ホール様とお話していると最近よく出てきます。そう考えると、今後の島づくりは大きく幅が広がりますね。実現可能なものから形にしていきたいと思っています。一方で、スマート遊技機のメリットのひとつとして、玉やメダルの補給音や落下音がほぼなくなって静かになることもあります。

大木 音の問題は大事です。現状ではパチンコをやらない人にとって、ホールのドアが開いた瞬間の音はびっくりしますよね。私が手掛けた店舗では、排気口を一回天井の中に入れて、そこから外に出したり、壁や天井に必ず吸音板を入れたりしています。

金海 当社でもそれに近いことはやっているんです。パチンコ島で一番音がするのは玉の研磨や揚送する機械の音なんですね。そこに吸音材を使っています。玉補給に関してはいま、布で研磨するのではなく、ポリ研磨材に特殊なオリジナル洗浄水を吹きかけて玉を磨いています。コロナ禍で店内の衛生面が注目されていますが、このオリジナル洗浄水は、ウイルスの除去率が99・9%という北里環境科学センターによる試験結果も報告されています。そこで磨かれた玉が補給で流通することで、パチンコ台や島の桶もキレイにする効果があるんです。

大木 それはすごいですね。

金海 『ビックつばめ』様にもこの点を高く評価していただきました。加えてご提案したのは、玉がキレイということをお客様に知っていただくこと。そのためのPOPやのぼりも当社でご提供させていただきました。テーマは清潔感。パチンコをやらない人がお店の前を通った時に良い印象をもってもらいたい。同時に、コロナ禍で「玉を触りたくない」というホール様の女性スタッフもいらっしゃると聞いていますので、CSとともにESにもお役に立てると思っています。そうしたことで店舗の集客だけでなく業界のイメージアップにもつながればと考えています。

大木 以前、パチンコホールでトイレに入った後に手を洗う人の数を調べたことがあります。すると、男性でトイレ後に手を洗う人は3分の1しかいなかった。ではどうすればいいのか。設計の段階で、トイレだけではなく店内のいろんなところに手洗所を設けて、なるべく手を洗ってもらえるように仕掛けるんです。女性は電車の車内で吊革にあまりつかまらないのと同じで、誰が触ったかわからないハンドルに触ることに心理的なハードルがあります。だから手洗所を設けて手を洗ってもらう仕掛けを作ることが、営業的にはすごく効いてくる。それと玉をキレイにすることとセットでやっていくと、とってもいいんじゃないかな。玉もキレイだし、手洗い場もたくさんあってハンドルもキレイ。それがお店を選ぶ基準のひとつになってくるはずです。遊技機がどの店も同じであれば、そういうことの積み重ねでしか集客力を上げる方法はありませんから。

スマート遊技機が攻めなら既存機は守り

──スマスロの初期稼働が良いこともあって今後に期待が高まっていますが、5年、10年先のパチンコホールはどんなカタチになっていくでしょうか。

金海 ホール様ごとで個性が出てくるのではないかと思っています。もちろん大型店はあるでしょうし、コンビニパチンコと言われていますが、台数が少ない駅前型の店舗が出てくる可能性もあるでしょう。立地や生活環境を踏まえて、駅前店であれば短時間で遊べる遊技機を設置したり、郊外店では休みの日に1日ゆっくりと遊べるような遊技機を主力にしたり。遊技機にも個性を持たせることができればと個人的には思っています。

大木 いろんなタイプの人に対応していくことが必要ですよね。そのためには遊技機のラインナップや付帯施設も含めてメニューが多ければ多いほどいい。現状のパチンコ・パチスロユーザーはスマート遊技機についてきてくれるかもしれないけど、それだけでは業界が先細りになっていく。コロナ後になればスマホの遊び以外に外に出ていく遊びが必要になってくるでしょう。ひとりの世界に入り込んで部屋の中に居るのと、大きな空間の中にひとりで居られることは全然違うと思う。そのためにもパチンコホールが多種多様な人の受け皿になる必要があります。

金海 外に出てコミュニティーに参加するときもあれば、ひとりでいたいときもありますよね。そういう多様性には応えていきたいですね。

大木 私はよく言うんだけど、ウォルト・ディズニーが作ったディズニーランドの街並みは、彼が10歳ごろまで住んでいた場所の街並みをそのまま再現したんです。その後、父親が事業で失敗して一家離散となり、二度と父親と会うことはなかった。その彼が言っていました。ディズニーランドは子どものために作ったのではない。ストレスを抱えた大人たちを、あの時代にいっときでも戻してあげるために作ったんだと。子どもは大人の心を持っていないけど、大人は誰でも子どもの心を持っていると。だからディズニーランドにはあんなに大人たちが行くんです。大人のためにそういう空間を創って、大人のための仕掛けをいっぱいしている。これはホールさんにとってもすごく大きなヒントだと思うんです。

金海 今度の『ビックつばめ』さんのデザインも、お花がテーマのデザインで大人の遊び場にふさわしいですよね。お花畑の中でパチンコを打っているような。そういう空間と遊技機がマッチすればいいですよね。自社の話で恐縮ですが、「花のホール」に「花の慶次」とか(笑)。


大木 今回は島の幕板を木調にしているんですが、木でも木板の木ではなく、ギザギザのあるような木材で、それが花を植える箱のイメージなんです。だから島も店舗デザインの一部になっている。それらを個々にやるのではなく、全体的なトータルバランスで空間づくりをしていかないといけない。思い付きだけではダメなんです。薄い皮を一枚一枚重ねていくことが大事。積み上げてきたものの中から次の発想が生まれた方がすごくいいんです。


金海 島の話で言えば、今後スマート遊技機では玉の自動補給が必要なくなりますが、スマート遊技機に完全移行するのは5年先、もしかしたら10年先かもしれないと私は考えています。最初の2~3年は並走しますが、その後も低貸島や甘デジ島は既存のままで残っていくでしょう。そう考えると玉の補給設備はまだまだ需要がある。そこで思いついたのが、研磨機を簡単に脱着できる島なんです (※48頁参照)。

大木 今度の『ビックつばめ』で入っている島ですよね。

金海 多くのホール様は、この10年ほど、次世代遊技機が出てくることを想定してパチンコの島補給設備にそれほど投資をしてきませんでした。でも、スマート遊技機ではユニットがあればいまの島が使えることがわかったわけです。加えて、今後はパチンコ・パチスロが混在した島にすることも考えられます。スマートパチンコを導入すると玉研磨装置や玉の補給樋などの補給設備は不要となります。ただ、それほど年数が経っていない補給設備を残置し、使用しない状態が長く続くと、錆びて使用できなくなりますし、何より再利用しないのは非常にもったいないです。この脱着できる島のメリットは使い回しが簡単にできること。そのために島を解体しやすくしました。一旦、島設備に研磨機を入れて、スマートパチンコが入った時には、研磨機を簡単に外せる。ドアを開けて研磨機をぽんと外して、ドアを閉めるだけ。工期は従来島に比べて格段に短縮できますので、閉店後の作業で充分可能です。

大木 それは既存の島ではできないんですか?

金海 簡単にはできません。一回、島を壊して研磨機を分解して外す必要があり、日数も費用も相当かかる工事になります。一方、新店でこの島設備を導入すれば、スマート遊技機を設置する島の研磨機を外して、外した研磨機は古い研磨機を使っているチェーン店などに移設ができます。単独店でも今後、既存P機の甘デジ島、低貸島が5年、10年残るとすれば、その間は研磨機を出し入れができるようになります。しかもP/S併用島なのでパチンコとパチスロの変更も簡単にできます。

大木 遊技機のメニューのひとつとしてスマート遊技機があるわけで、すべての遊技機がスマート遊技機に入れ替わるのはもっと先という話ですよね。

金海 はい。スマート遊技機が攻めなら既存機は守り。捨てるのかというとそれはできない。だとすれば研磨機も使いまわすことで経済的なメリットが出てくるはずです。

大木 経営者はどういう方向に行くのかがわからないと決断のしようがない。だからこそ、どういう方向になってもいいようにしておく。これは大事ですよね。

地域に根差して共生していく存在に

──今回のテーマは「変わることができるか」です。最後に今後の抱負をお願いします。

金海 業界のイメージも含めて、ホール様のイメージを良い方向に変える材料を提供していきたですね。島設備にしてもいままでにない付加価値をご提供することで、ホール様やエンドユーザーにアピールしていきたい。自分は遊技機販売事業もやっていますので、あくまでもホール様目線で、ホール様の悩んでいることを解決していきたい。例えば機械代の問題にしても、ひとつの機種では難しいことでも、システム化することでホール様の機械代の負担を減らせるはずです。それはいま、グループ全体で考えています。今後、いろんなコンセプトのホール様が出てくるでしょうが、守りの部分では設備業者としてきちんと既存の設備をケアしていかなくてはいけない。同時に新しいものを作っていく。それがこの業界の設備を担う企業の役割かなと思っています。

大木
 数年前に青森県の弘前に行って、商店街の一番奥にある津軽三味線が聞けるお店で食事をしました。その店の向かいにパチンコホールがあって、店主と話をすると「この灯りがあるからお客さんが商店街の奥まで来てくれる。だからあってくれて本当に助かる」と話してくれました。とくに地方では、ホールは若い人たちの就業先にもなっている。そこで人材教育もきちんとしてくれる。高齢者は医療費が無料ではなくなってから、パチンコホールしか居場所がない。そういうなくてはならない施設なんです。そこにもっと寄り添って、地域に根差して共生していく存在になっていかなくてはならないと思います。そうなればホールが特殊な空間だとは思われなくなる。スマート遊技機でエンターテインメントの世界が広がって、さらに心温まる空間に変わると新しい未来が拓けてきますね。

大木啓幹(おおき・ひろもと) 
オオキ建築事務所 代表 一級建築士
大型複合施設、商業施設、ホテル、温浴施設、住宅等の建築デザインを手掛ける。
コロナ禍初頭の2020年3月に「パチンコホールは3密には当たらないとする提言を行い
パチンコホールの換気能力の高さを内外に実証した。


金海晃和(かなうみ・あきかず) 
1998年4月、㈱ニューギン入社。その後、㈱ニューギン販売で営業本部部長、取締役などを歴任。現在は、同社の専務取締役兼営業本部長(2019年1月)、㈱ニューギン・アドバンス代表取締役専務(2022年1月)を兼任する。


※『月刊アミューズメントジャパン』2023年3月号に掲載した記事を転載しました。


パチンコ・パチスロ最新記事