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2023年01月26日
No.10003261

遊技台が運べなくなる?
業界も「2024年問題」に危機感を

遊技台が運べなくなる?
左から髙部理事長と紺野副理事長

全国の遊技機運送業者83社からなる遊技機運送協同組合(遊運協)が運送業者の「2024年問題」に直面している。これは国が定める時間外労働の上限規制のうち、特定業種に認められた猶予期間が2024年3月末で終了することを指す。2024年問題が業界にもたらす影響とはどのようなものか。運送業の課題について考える。
文=野﨑 航(本誌)

新台の納品や撤去台の引き取りなどで、業界を支える運送業者。規則改正による旧規則機撤去時の活躍は記憶に新しい。そんな運送業界が抱える「2024年問題」とはいったい何なのか。

これは働き方改革で時間外労働の上限が規制されることによって発生するさまざまな問題のこと。時間外労働の上限規制はすでに施行されているが、運送業に適応されるのは24年4月1日から。運送業は960時間(月80時間)に制限され、これに違反した場合は6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される。

一見すると、長時間労働のイメージがある運送業のホワイト化を目指すきっかけに感じられるかもしれないが、実は企業にとってもドライバーにとっても死活問題だという。

その理由として挙げられているのが、売り上げの減少。単純に労働時間が減れば、一日に運べる荷物が減る。その分の売り上げを補填するためには、運賃を値上げせざるを得ないところだが、価格競争も激しいためなかなか運賃の値上げに踏み切ることは難しい。

基本給と走行時間に応じて運行手当が支給されるドライバーも、拘束時間が見直され、走行距離が短くなれば収入が減少する。収入が減少することで、慢性的なドライバー不足に悩まされる運送業界からの労働力の流出は避けられないだろう。

では、この「2024年問題」がパチンコ業界に及ぼす影響はどんなことが考えられるのか。遊運協の髙部鉄次理事長は困惑を隠さない。

「例えば、関東から名古屋の工場まで新台を取りに行くには10トン車で片道約7時間かかります。これまでは決められた休憩時間などを守っていれば一人で往復できました。拘束時間の縛りができると2人運行の体制にしたり、中間地点に営業所を置いてドライバーを交代したりすることも考えなくてはいけません。ただでさえ売り上げ減少、ドライバー不足という懸念があるのに、さらにお金をかけなくてはいけない状況も生まれてしまうのです」

まず問題点として挙げられるのは拘束時間。新しい法律ではドライバーの拘束時間は13時間、延長して最大で16時間までと定められている。新しい法律では休憩時間も拘束時間に含まれており、1人のドライバーで運ぶには時間的にギリギリになってしまう。

次に深夜から早朝まで行われることもある新台入替だ。ホールの営業終了時刻に遊技台を納品し、撤去台を倉庫まで運ぶ作業も困難になるかもしれない。

紺野仁嗣副理事長は「新台を納品して、撤去台が外れるまでだいたい2~3時間待ちます。それを積んで会社まで戻ると朝5時、6時というのは当たり前です。入替日はエリアの所轄によって違いますし、それが数日、毎週続くとなると、ドライバーが少ない企業はすぐに時間外労働の上限に達してしまう。全地域で入替日は店休、曜日もずらしていただければ、運送業側としては効率よく回ることができるので助かるのですが」と苦しい胸の内を明かす。

若年層の免許取得率低下
深刻なドライバー不足


運送業界全体でドライバー不足は深刻化している。現代の若年層は免許を取ることも少なくなってきている。トラックに乗るには最低でも準中型(3・5トン以上7・5トン未満)の免許が必要。さらに中型、大型の免許を取得するには20歳以上で普通免許等保有2~3年以上という受験資格が必要になる。

紺野副理事長は「運転するトラックの大きさはさまざまです。各メーカー様に新台を取りに行くとき、大型店の大規模な入れ替えなどは10トン車ですし、新台の台数が少ないときや駐車場所が狭い場所は2~3トン車で行くこともあります。大型車を運転できるドライバーの給料が最も高いのですが、そもそも大型の免許を取るまでに数年を要する時点でドライバーを目指す若者が少なくなっています。将来的なことを考えると不安ですね」と現状を語る。

髙部理事長が自社で24年の法改正後のシミュレーションをしたところ、売り上げは40%減少。その40%減少する分を運賃などに転嫁しなくてはならないかもしれないと危惧する。

「パチンコ業界自体が厳しい状況というのは理解しておりますので、ホール様に運賃の値上げは伝えにくい。こちらがやむを得ず値上げしても、それよりも安価で運ぶという業者も現れます。規則を守ろうと、真面目に仕事をすればするほど仕事が減っていく可能性もあります」

ピーク時で約1万8000軒のホールがあった当時は、その分、運送する店舗数、遊技台、ドライバーも多かった。だが店舗数はピーク時の半分以下にまで減少。遊技機運送を専業としている企業も少なくなっている。

「組合には加盟しているが、一般貨物を運ぶのがメインになっている企業も多くなっています。現在、遊技機専業でやっている運送会社は83社中5~10社くらい。組合員が減りそうな雰囲気もありますし、専業では難しい時代になったと感じています」

24年からはすべての運送業者が同じ条件で運送しなくてはいけなくなるため、運送業全体の運賃の値上げは避けられないという。

「体力のない運送業者は24年4月から徐々に減っていき、それに伴い運賃が上がっていくと思います。ただ、運送業自体が減少していくため、運んでほしくても運べる車がないという状況に陥る可能性もあります。組合員には、この仕事を諦めてほしくない。遊運協としては23年から業界の関係団体様とご相談しながら、24年を迎えても変わらぬサービスを提供できるように努力していきたいと思っています」(髙部理事長)


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