特集記事

特集記事内を

2023年01月26日
No.10003260

迫るインボイス倒産の危機
ホールは景品卸問屋にすぐ確認を

迫るインボイス倒産の危機
軍司副会長と堀井会長(右)

消費税の適格請求書等保存方式(インボイス制度)が2023年10月1日から開始される。ホール業界で最も懸念されることは、三店方式の一角を担う賞品買取所の経営破綻だ。ホール営業の根幹をなす三店方式が崩れれば、連鎖倒産は不可避。全国流通商団体研究会の堀井努会長と軍司浩太郎副会長に、問題点と解決策を聞いた。
文=石川 桂(本誌)

インボイス制度は、消費税の税額と税率を国税庁が正確に把握するために始まる新しい仕組みだ。正式名称を適格請求書等保存方式といい、インボイスは「適格請求書」のことを指す。現行方式からの変更点は、課税事業者が「仕入税額控除」する際に、売り手から発行された適格請求書が必要になることだ。

適格請求書をもつ課税事業者が消費税を申告・納付する場合、「買い手に販売した商品価格の消費税」から「売り手に支払った仕入れ商品価格の消費税」を差し引ける。しかし適格請求書がなければ、「買い手に販売した商品価格の消費税」がそのままの額になる。

例えば売り手から本体価格5万円(税込み価格5.5万円)で仕入れた商品を、本体価格7万円(税込み価格7.7万円)で販売したとしよう。適格請求書があるときの申告・納税額は、販売時の預かり消費税7000円から仕入れ時の支払い消費税5000円を差し引いた2000円。一方、適格請求書がないと販売価格に対する消費税7000円になる。

消費税の基本的な流れを簡単に押さえたところで、本題に戻ろう。インボイス制度がホール業界に及ぼす影響についてだ。

インボイスに備える
全国流通商団体研究会


全国流通商団体研究会の堀井会長はインボイス制度が引き金となり、ホール業界で連鎖倒産が始まると警鐘を鳴らす。

同研究会は、景品卸問屋と賞品買取所で構成される全国規模の組織だ。関係団体からの要請もあり、前身の首都圏流通商団体研究会が賛同者を募集。インボイス制度や暴力団等反社勢力の排除、三店方式などの研究を旗印に掲げる。202 2年11月現在の加盟数は、35都道府県の16団体と46商社。初代会長には東京商業流通協同組合の堀井理事長が就いた。

堀井会長は連鎖倒産の原因の一つに、未成熟な業界情報網を挙げる。

「ショップ(賞品買取所)はホール様と対になるほど数が多いものの、運営者の大半が小規模な事業者です。ショップ同士の”横のつながり“はほとんどなく、インボイス制度のような大きな変化を前にしても、事の重大さや危機意識を共有できずにいます」

東商流の副理事長で、同研究会の副会長を務める軍司浩太郎氏は、インボイス制度によって引き起こされる具体例を次のように指摘する。

「ショップは個人客から賞品を仕入れ、景品卸問屋に販売しています。これまでは適格請求書なしで仕入税額控除できていたので経営が成り立っていましたが、適格請求書が必須となると、個人客からもらうほかありません。ですが、応じてくれる個人客は皆無。ギリギリの売上で成り立っているショップの税負担が一気に膨れれば、経営が行き詰まるのは明らかです」

行きつけの賞品買取所が廃業すれば、個人客は当該商品を売却する場を一つ失う。代わりとなる別の買取所に持ち込んでも、そこで当該商品の真贋を検品できるとは限らない。個人客は別の買取所を探す手間に加えて、買い取りを拒否されるリスクを負うのだ。扱いづらい商品の人気は衰える。不人気商品を提供するホールもまた、活気を失うだろう。

段階的な対応で解決へ
まずは自店の状況確認を


相手方から適格請求書を発行してもらえない場合でも、一定の要件を満たすことで仕入税額控除できる特例を国税庁は認めている。古物商特例と質屋特例等だ。賞品買取所は古物商と一見似ているが、古物商は都道府県公安委員会の許可を得た許可事業者。全国的に見れば、古物商の許可を取得している賞品買取所は少ない。

両者は取り扱う商品も異なる。賞品買取所は主に金地金を含む商品だが、古物商は古物営業法の施行規則に分類される13品目。監督官庁の警察庁は、盗品として流通する恐れが低いことから「金商品や特殊景品は古物に該当しない」として、遊技景品を13品目の中に含めていない。

「ショップは一般の事業者と同じように、古物商の許可を取得してください。国税庁は、古物商が古物に該当しないものを古物営業と同等の方法で仕入れる場合も、古物商特例の対象になると公表しています」(軍司副会長)

賞品買取所が「仕入税額控除」できるようになっても、業界課題は依然として残る。取り引きの次段階である景品卸問屋に対して適格請求書を発行できなければ、景品卸問屋に納税負担が重くのしかかるためだ。景品卸問屋が衰退すれば、次の取引先であるホールにも当然影響が及ぶ。

「ショップが着手すべき順番は、まずは管轄税務署長に申請して適格請求書発行事業者の登録を受けること。3月末までに登録申請しなければ、インボイス制度に間に合いません」(軍司副会長)

「古物商の許可はその後でも十分間に合います。取得までにかかる日数は、申請してから約40日。当研究会では4月から順次、古物商営業の許可申請手続きをとってもらうつもりです」(堀井会長)

これらは、ホールにとって対岸の火事ではない。まずは自店に出入りする景品卸問屋から情報を入手し、状況を確認。互いの取り引き保護を図ることが先決だ。

堀井会長は、「景品卸問屋とホール様は車の両輪。ほころびがありそうな状況でしたら、当研究会にすぐに知らせていただきたい」と訴える。全商流は全日遊連、各都府県方面遊協にも協力を要請。ホール業界の安定存続に奔走している。


パチンコ・パチスロ最新記事