特集記事

特集記事内を

2022年10月20日
No.10003093

特集/依存問題の現在地③ ダイナム
会員を対象とした世界初の調査
社員、ユーザーへの伝え方が課題

会員を対象とした世界初の調査

ダイナムは2019年に会員カードを用いた遊技者の実態調査を実施した。ギャンブル系レジャーにおける会員を対象とした調査は、世界でも初めてと言われている。調査結果を受けて、同社が感じたこと、そして今後取り組むべきことをリスク管理部の2人に聞いた。

「2018年10月にギャンブル等依存症対策基本法が施行されてから、業界にはさまざまな規制がかかり、パチンコ=依存という世間の印象も強まりました。そういったイメージを払拭するため、問題を抱えやすい人や問題を抱えてしまった人たちにどう対応するのか。問題の抱えやすさには特徴があるのではないかという推測のもと、この調査がスタートしました」とリスク管理部の須藤暁マネジャーは話す。

同社は公立諏訪東京理科大学と共同研究契約を結び、会員カードを持つ遊技者の実態調査を開始。アンケート調査を実施したのは19年9月頃で、46都道府県に展開している全店の会員の中から、過去1年以内に会員カードを挿し込んで6000個以上の打ち込みがあったユーザーをランダムに2万人抽出した。

「調査実施について検討し始めたのが19年1月頃で、実際に調査スキームを考えてアンケートを実施するまで、約半年かけて準備しました。アンケート配信対象会員の抽出にあたっては、17年に社安研で実施した調査結果(パチンコ・パチスロ遊技障害全国調査)の分布を参考に、若年層のデータも欠損しないように調整しました」

アンケート内容はパチンコ・パチスロ遊技障害尺度(以下、PPDS)※1の短縮版を6項目、健全遊技項目から14項目、会員カードの使用頻度の計21問。アンケートを送った2万人の内、約5000人から回答を得られた。

※1 : 日工組社会安全研究財団パチンコ依存問題研究会が、SOGSのギャンブリングの部分をパチンコ・パチスロに入れ替え、改善・検討し、作成したもの。完全版PPDSは全27項目、完全版PPDSの結果を6項目で近似値まで再現したものを短縮版としている。

ダイナムと公立諏訪東京理科大学の共同研究では、このアンケート結果と会員データ(性別、年齢、遊技履歴などを含む)を分析した。調査結果について須藤マネジャーはこう語る。

「使用金額の多さ、遊技時間の長さ、遊ぶ機械の射幸性などは、ギャンブリング障害のリスクと関係がないほうがいいと期待する反面、多少の覚悟は決めていました。特徴的な相関は見られないという結果にホッとしましたが、一方で『低貸しだから安全』だとか、『射幸性の低い遊技台だから安全』かというと、そこにも相関性は見られませんでした」

調査結果では、遊技時間、現金投資額とPPDS合計点には有意な相関が認められたものの、相関係数は0.1以下と極めて小さいことがわかった(表1)。つまり、ほぼ影響していないと考えられる。

健全遊技項目とPPDS合計点の関連ではすべての項目で有意な相関が認められた(表2)。特に「先月パチンコ・パチスロに使ったお金は、失っても構わない範囲で済んだ」、「先月において、他に優先すべき事象があるときは、パチンコ・パチスロを打たなかった」という2項目で中程度以上の効果量※2が認められ、健全遊技※3が障害リスクを下げる可能性が高いことが改めて確認された。

また、遊技量等によるPPDS合計点の説明は困難で、機械学習による予測でも遊技量等からの遊技障害疑いのリスク予測は困難だったとしている。つまり、各会員の遊技量から遊技障害リスクを予測し警告する仕組みを構築することは難しく、遊技障害の疑いの予防対策として有用ではないと考えられた。

※2 : 「検出したい差の程度」や「変数間の関係の強さ」のことで、その実験の効果を見るための指標
※3 : 肯定的(健全な)パチンコ行動、自己コントロールができている遊び方(お金・時間の管理、嘘をつかないなど)のこと



健全遊技の広め方
研究結果を活かすために


ダイナムには全国の店舗に現在約1500人の安心パチンコ・パチスロアドバイザーがおり、各店舗で依存問題について適切な案内を行っている。先の調査結果を受け、健全遊技についてアドバイザーにはどう伝えているのか。

「いまは研究の成果としてわかったことの一つ、健全遊技の推進について、全店にどうやって伝えるべきか協議を重ねているところです。健全遊技というのは、現場の社員にとって聞きなれていない言葉だと思うので、違う言葉に置き換えて伝える必要があると考えています。健全遊技の考え方として『お金・時間に関する計画を事前に立てて、その通りに遊びましょう』というものがありますが、現場の社員は『なるべく長く遊んでもらいたい』と考えています。一見矛盾していますが、お客様を個で見たときに『なるべく長く』の前に『お客様が許す範囲で』という一言が加わることについては、現場の社員も理解してくれています。このような違いを全店舗の全員が共通理解できるような対応方法を事前に考える必要があります」(須藤マネジャー)

遊技時間や使用金額の幅、よく遊技する機種の遊技料金は、ユーザーによって異なる。現場の社員全員が「健全遊技の推進」に基づいて、過度なのめり込みなどの問題で困っていそうなユーザーに対応できるようになることが課題だという。

リスク管理部は月に一度の定例ミーティングに広報担当を交え、依存問題に関する協議や社内の取り組み、伝え方などについて協議している。今回の調査を通じて感じた、今後の展望を阿部到部長はこう話す。

「調査にご協力いただいたリカバリーサポート・ネットワークの西村直之代表から伺いましたが、会員カードを用いた遊技者の実態調査というのは、おそらくダイナムが世界で初めてとのこと。この研究自体が会社の一つの資産です。これを活かす難しさというのはありますが、パチンコで不幸なお客様を出さないための取り組みは継続して行っていきたい。また、弊社の調査結果だけでは比較対象がありませんが、ほかの法人様で同じような調査ができれば、業界内で研究が進んでいくと思います」

リスク管理部の阿部部長(左)と須藤マネジャー

※『月刊アミューズメントジャパン』2022年10月号に掲載した記事を転載しました。


パチンコ・パチスロ最新記事