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2022年09月26日
No.10003051

木曽 崇(国際カジノ研究所 所長)
横浜IR誘致推進の反省点
[コラム]カジノ研究者の視点

横浜IR誘致推進の反省点
Kiso Takashi [プロフィール]日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所入社。2011年、(株)国際カジノ研究所設立。

本年9月、神奈川県横浜市は「横浜IRの誘致に係る取組の振り返り」と題された報告書を公表した。昨年行われた市長選の結果、頓挫することとなった同市における統合型リゾート(IR)誘致についての壮大な「反省文」である。339ページにもおよぶこの報告書は、その大半を民主党政権時代から国で進められてきたカジノ合法化とIR整備の歴史、および横浜においてIR誘致が推進されてきた経緯説明に費やし、後半およそ100ページでその反省および今後の方針が綴られている。その様相は、イタズラがバレて先生に書かされた小学生の反省文のようだ。

この報告書が指摘した横浜市の最大の過ちは、「市民とのコミュニケーションの不足」であったと大きく総括できるであろう。横浜市では前市長・林文子氏がIR誘致を掲げて以降、いったんの白紙撤回発言からの、当選後の再公約化と方針転換が続いてきた。そのような紆余曲折の中で徐々に高まる市民の不信感に対し、市が十分かつ適切なコミュニケーションを取っていたかというと、正直そうとは言えない。実はこれは、横浜市でIR開発を希望する企業サイドとのコミュニケーションにおいても同様で、当時の進出希望企業からも同様の不満の声が挙がっていた。

長らく日本のIR推進の旗を振ってきた私の立場として、今回の横浜市の報告書を拝読して反省すべきと感じたのは、IR事業のリスク負担の所在を適切に説明できてこなかったことである。報告書では、過去に横浜市によって試算されたIR導入効果を公認会計士や監査法人らがレビューした内容が記載されている。彼らは口々にコロナ禍を含む市況の変化による事業リスクを主張しているが、我が国のIR法制はそのような市況変化リスクを民間企業に負わせるために、制度上、施設の「民設」が義務付けられている。市況変化によるリスクを行政が受けることはない。その点をしっかりと説明できてこなかったことは、私を含めた推進派サイドの落ち度であろう。

また、コロナ禍発生後も国土交通省がIR開発要件を変更しないことも、市民のリスク認知を高めている原因だ。国土交通省はコロナ禍前に、日本のIR開発方針として、その開発を一定規模以上の大規模なものとする最低基準を定めた。この基準は市況の変化と共に本来修正がなされるべきものであるが、国土交通省はコロナ禍発生後もこの修正を嫌い、要件を据え置いたままでいる。そのことが結果として市民に認知されるリスクを増幅し、また前出の「民間によるリスク負担」の原則が説明不足であったことも相まって、そのリスクをあたかも市民が負うかのように誤認させたのではないか。横浜市以外に居住する推進派にとっても、市によるIR推進の失敗から学ぶことは多い。


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