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2022年05月13日
No.10002793

EC最新事情①
成長し続ける日本のEC市場
コロナ禍で物販系は2割増

「実店舗がなくても世界中に販売できる」「営業コストが低い」「自動販売が可能」。こうした多くのメリットをもつECサイトが誕生して30年近く。右肩上がりで成長してきたEC市場にコロナ禍でどのような影響があったのか、伸び盛りの分野は何か、経済産業省の市場規模の統計調査を元に紹介する。

巣ごもり消費が伸び
サービス系の減少をカバー


EC(Electronic Commerce)は「電子商取引」のことで、eコマースと表記することもある。経済産業省商務情報政策局は、日本でECが加速度的に増加し始めた2002年から市場規模の統計調査を行ってきた。同調査は対象となるECを狭義では、「インターネットを利用して、受発注がネット上で行われることを要件とする」と定義している。したがって、見積りのみがネット上で行われ、受発注指示が口頭、書面、電話、FAX、定型フォーマットではないメールの取引などはECに含めない。

最も身近なECは、個人が企業から物やサービスを買うBtoCの形態だ。21年7月に公表された商務情報政策局の「令和2年 電子商取引に関する市場調査」によれば、日本のBtoCのEC市場規模は、19兆2779億円(図表1)。対前年比で830億円減少し、調査開始以来20年間で初めて横ばいになったという。 



もっともこれは、コロナ禍によりサービス系、特に旅行サービス販売が約6割減少したり、コンサートなどのチケット販売が大きく落ち込んだことが影響している。一方、巣ごもり消費の影響で、物販系のBtoCのEC市場規模は大幅に拡大。対前年比で2兆1818億円増加し、12兆2333億円になり伸長率は21.71%と過去最高を記録した。

日本のECの成長は
ネット環境の整備から


世界初のBtoC‐ECサイトは、1994年に開設したアメリカの「Net Market」という説が有力だ。日本では94年頃からニフティなどのプロバイダーが接続サービスを開始。翌年、TCP/IPスタックを標準搭載したWindows95が発売され、パソコンでインターネットを使う人が急増。ECを行う環境が整い始めた。新語・流行語大賞のトップテンに「インターネット」が選ばれたのもこの年だ。

96年、エム・ディー・エム(現楽天)がオンラインモール「楽天市場」を開設。98年には佐川急便が宅配事業を始め、インターネットで買った物を自宅まで届けてもらえるようになった。99年に「Yahoo!ショッピング」、2000年には「Amazon」が書籍販売のECサイトとしてスタートし、ECの利用人口を大幅に引き上げた。さらに01年から、孫正義氏の発案で、Yahoo!が原価が数万円するADSL方式のブロードバンドモデムを街頭で無料配布したところ他社も追随、ストレスなくオンラインショッピングを楽しむインフラが完全に整った。

個人対個人・企業対企業の
EC市場も大きく拡大


2020年は、個人同士が取引を行うCtoC‐ECも、前年比12.5%増の1兆9586億円と大きく伸びた。「メルカリ」などのフリマアプリの普及と「Yahoo!オークション」をはじめとするネットオークションサイトの浸透がその背景にある。特に、20年はコロナ禍で外出自粛が広がり、家の中を整理する機会が生まれ、不要品を売買した人が増加したためと推測されている。

BtoCやCtoCのECがこの10年で大きく伸びた理由のひとつとして、スマートフォンの保有数の増加が挙げられる。総務省の調査(図表2)では、2010年にわずか9.7世帯だった100世帯あたりのスマホの保有世帯数は、19年に83.4世帯に増加。16年にはすでにパソコンの保有世帯数を上回っている。若年層から高齢層までスマホを操作して、ネット上で手軽に注文・決済する人が増えたことが、市場拡大の一因になっている。



市場規模が最も大きいのが、企業間で取引を行うBtoB‐ECだ(図表3)。こちらもコロナ禍の影響などで、前年比5.1%減となったものの334兆9106億円と桁違いの数値になっている。個人向けと違い、企業間の受発注は必ずしもネット上の定型フォーマットに限らない。したがって、ECとECでない取引の境界線は曖昧で数値は推計だが、驚くほどの巨大市場になっている。



増加する自社ECサイトの
メリット・デメリットとは


最近、ナイキがAmazonから撤退し、自社ECサイトのみの商品販売、DtoC(Direct to Consumer)‐ECに切り替えたことが大きな話題になった。理由はECモールに支払う決済手数料の抑制だけではない。大手ECモールは、競合企業とのバッティング、顧客情報の入手が難しいというデメリットがあるのに対し、自社ECサイトではブランドの世界観の訴求が容易で、消費者との間で直接つながりやすくなるからだ。

楽天からディズニーストアやワークマンが、ZOZOTOWNからユナイテッドアローズが撤退するなど、大手ECモールへの出品をやめ、DtoC一本に絞るメーカーは増える傾向にある。しかし、圧倒的な集客力という点で大手ECモールの優位性は変わらないため、ブランディングが必要な高額商品は自社ECサイトで、大量に販売する普及品は大手ECモールでという使い分けも必要になっている。

最後に、世界の越境BtoC‐EC市場にもふれておきたい。2019年の世界の越境EC市場規模は7800億USドルと推計されているが、26年には4兆8200億USドルにまで拡大すると予測されている。平均年間成長率は約30%と驚異的で、世界のBtoC‐EC市場規模の成長率を大きく上回る。一例として、日本・アメリカ・中国三国間での越境BtoC‐ECの市場規模を見てみよう。最も購入額が多いのは中国で、日本から1兆9499億円、アメリカから2兆3119億円を購入している。アメリカは、日本から9727億円、中国から7382億円購入している。一方、日本は中国から340億円、アメリカから3076億円と極めて少額だ。

予想成長率を見れば、今後数年は越境ECサイトがどんどん増えていきそうだ。例えば、日本の化粧品ブランドを好む中国人消費者向けのコスメサイト、逆に日本人が安心して品質の良い中国製品やアメリカ製品を購入できるECサイトなどを立ち上げれば、大きなビジネスチャンスになるかもしれない。

※『月刊アミューズメントジャパン』2022年5月号に掲載した記事を転載しました。


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