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2022年02月24日
No.10002680

【特集】萌芽するポーカー人気②
ポーカー文化を日本に根付かせる
サミー新規事業「m」

ポーカー文化を日本に根付かせる
伊藤事業部長(左)と德村事業責任者

サミーは2021年6月9日、テキサスホールデムを軸とする新規事業「m」を立ち上げた。ゲームアプリやプレイハウス、メディアミックスと多岐にわたる同事業でサミーが目指すことは、ポーカー文化の浸透と醸成。事業責任者の德村憲一さんと事業部長の伊藤保勝さんに詳しく話を聞いた。【文中敬称略】

──新規事業を立ち上げた経緯を改めて教えてください。
德村 世界に1億人以上の競技人口がいるテキサスホールデムポーカーは、ルールがシンプルでありながら、高い戦略性や競技性が存在するマインドスポーツです。日本ではプレイヤー人口がまだ80~100万人程度ですが、ブランディングやイメージ戦略をしっかりと行えば、同じマインドスポーツである麻雀や将棋、囲碁と肩を並べるほどに、日本のメジャーな文化になりうる。1年半ほど前から市場調査を開始しました。都内のアミューズメントバーは100軒を超え、200に届くとも言われています。地方都市でも徐々に出店が見られる今のタイミングは、競合が多いわけでもない。新規事業として十分に成長が見込めると判断しました。

──市場調査で分かったことは、どのようなことですか。
伊藤 例えば若者の関心の高さです。そのこと自体は、いくつかのプレイハウスを巡った経験から肌感覚で感じていましたが、それを裏付けるような結果が出ました。社内の声を拾ってみても、若い人ほどおもしろがっていた。新卒採用の面接時に好きな遊びを聞くと、パチンコ・パチスロと同じようにポーカーが出てくるんです。麻雀よりも先にテキサスホールデムを覚えたという学生もいるほどでした。

──mが目指す文化とは、どういうものですか。
德村 麻雀や将棋と同じように、余暇・娯楽の選択肢の一つとすることです。プレイヤー人口で言えば麻雀が510万人、将棋が620万人ですから、600万人規模を目標に、国民に広く受け入れられた状態を目指しています。麻雀や将棋と比べた場合、テキサスホールデムは多人数が一斉に参加できること、1ゲームあたりの所要時間が非常に短いことが特徴です。家族・親戚が集まる場や職場のちょっとしたレクリエーションなどで気軽にパッとできるような、それくらい身近なものになればと思っています。

──貴社はこの事業領域でどのような強みがありますか。
德村 サミーグループの強みは、既存の遊びにエンタテインメント要素を付加できることです。mでもテキサスホールデムの遊び方や駆け引きの醍醐味を広めるだけに終始せず、遊技機事業で培ったドキドキ・ワクワクさせる要素を提供する。マインドスポーツを「マインドエンタテインメント」として捉え、知的興奮体験、感動体験を創造し続けます。アナログとデジタルの両面で展開できることもグループの特徴ですから、アプリでもプレイハウスでも先駆者に負けない創意工夫を凝らし、市場そのものを大きくしていくことに挑戦します。

「m HOLD'EM目黒」の店内

アプリの滑り出しが好調

──事業の中ではアプリが先陣を切りました。手ごたえはいかがですか。
伊藤 おかげ様で登録者が40万人を超え、初動の感触としてはまずまずです。アプリはテキサスホールデムを今までプレイしたことがない人にとって、最初のタッチポイントになります。開発ではこの点を強く意識して、有名なイラストレーターさんや声優さんを起用し、キャラクターをデザインしました。ユーザーインターフェースもできるだけ分かりやすいように設計しています。リリース後にも初めての人がやってみようと思えるように、自社グループIPや人気IPとのコラボイベントを展開。これまでに「龍が如く」「ぷよぷよ」「東京リベンジャーズ」とのコラボを行いました。IPがもつ誘引力はパチンコ・パチスロのタイアップと同じようなところがありますから、プレイ層を広げる動機付けとしては効果的。ユーザーアンケートでは、パチンコ・パチスロファンや麻雀ファンとの親和性が高いことを確認できたので、「ツインエンジェル」や「セガサミーフェニックス(Mリーグ)」とのコラボも実現させました。

アプリ「m HOLD'EM」のキービジュアル

──既存アプリとどう違いますか。
伊藤 未経験者や初心者でも無理なく遊べるように設計しています。一方、既存のアプリは良くも悪くも、経験者用に作られている印象を受けます。画面上の表示は最低限の情報だけ。経験者は簡略表示でも意味を補完できますが、未経験者や初心者には難しいように感じられます。淡々とプレイしたい人からは賛否両論が聞こえてきますが、当社のアプリではハンドの強さによって「チャンスかも」「超チャンス!」といった表示もしますし、ベットアクション時やショーダウン後に専用の演出を加えています。この演出がサミーっぽいと言われることもありますね。

──成績優秀者に賞品を贈ることも特徴的です。
德村 eスポーツ化したいと考えているので、年間王者を決める大会では賞金総額331万円を用意しています。日常的なトーナメントでもリアルな賞品がもらえるのは、パチンコ・パチスロアプリ「777Real(スリーセブンリアル)」と似ています。ランキングポイントのやり取りだけでも十分な緊張感はありますが、やはり賞品をかけた疑似的なギャンブリング体験には相応の醍醐味がある。各種法律に則った正規のやり方で、展開していきます。

──広告の見せ方には感心しました。
德村 テキサスホールデムではハンドを降りると、残りプレイヤーの勝負の行方を見守る待機時間がかなりの頻度で発生します。この暇になる時間にショートタイムの広告を見てもらっています。課金して「VIP会員」になったユーザーは、この広告表示を常時オフに設定できます。しかし初心者にテキサスホールデムを好きになってもらうことがコンセプトですから、”課金ありき“の姿勢は避けたい。そこで課金しなくても、都度のクローズボタン操作で閉じられるようにしました。
伊藤 「VIP会員」にはその他の特典があります。過去の対戦をリプレイ機能で再生したときに、VIP会員限定で全プレイヤーのハンドを見える状態にできる公開機能です。これで上位ランカーのプレイを参考にできます。実践では絶対に叶わないアプリならではの機能ですね。今後も広告収入を得る仕組みや企業協賛にも力を入れていきたいと考えています。企業協賛は、冠トーナメントに景品をご提供いただいて、試合前や最中に商品広告を表示するもの。これまでにJTカップやarrowsカップを開催しました。

──今後の強化ポイントはどこですか。
德村 コミュニケーション機能です。サービス開始時から挨拶程度のスタンプを実装していますが、より雑談できる仕組みを考えています。現ユーザーがアプリ未経験のリアル友達を誘いやすい機能も拡充したい。プレイ経験の浅い人ほど知らない人と対戦することに不安を覚えるはずですから、友達をテーブルに招待できる「フレンドマッチ」を活用してほしいですね。

サミーグループの強みはエンタメ要素の付加

アプリユーザーが続々と実践デビュー

──夏には東京・目黒でリアル店舗を開業しました。
伊藤 「m HOLD'EM目黒」は、アプリと同様に初心者でも楽しめることをコンセプトに掲げています。他店舗の中には、アンダーグラウンド感や暗いイメージが漂うような店があります。これでは敷居が高く、ましてや女性はなおさらです。当店は物件探しの段階から、路面店で窓面が大きいことを条件に挙げ、明るい雰囲気づくりに努めています。

──初業態への店舗出店は骨が折れそうです。
德村 当社は「サミー戎プラザ」(大阪市)や「フェスティバルウォーク蘇我」(千葉市)で店舗の運営実績がありますが、ポーカーは初めてなので、何から手を付ければよいのか分からない状態でした。同業の運営経験がある方に協力を仰ぎましたが、当店のコンセプト自体が業界初なので、その方にとっても初めての経験。本当に手探りで進めてきました。
伊藤 最も苦労することは人材教育。採用したスタッフの8割がポーカー初心者だったので、ディーラー知識を覚えてもらうことに始まり、接客方法も身に着けてもらう必要がありました。採用してからデビューさせるまでに、3カ月程度はかかりますね。

──ディーラーの役割は大きいのですか。
伊藤 はい。例えばトーナメントでは審判役として、チップ計算や正確なゲーム進行能力が求められますし、リングゲームでは盛り上げ役として、テーブルの雰囲気をつくる必要があります。売上面でもトーナメントでは、敗退したお客様に「リングゲームでもう少し遊びませんか」とお声がけしたり、ドリンクを勧めて客単価アップを図ったりする。リングゲームではお客様同士のコミュニティをつくり、リピートにつなげる役割があります。テーブルの全員に気を配れるかで、売上は変わってきます。
德村 物足りなさを感じているのは、ドリンクやフードの追加注文。なかなか次の1杯が遠い。フードも当初は食事だけの入店や、プレイ後の食事を見込んでいましたが、ちょっと追い付いていない。より魅力的なメニューや注文しやすい環境を整えることに注力したいです。

──世界初のプロジェクション・ポーカー・テーブル(PPT)は評判が良いですね。
德村 他店との差別化が図れますし、コンセプトに合致すると確信していたので、かなり早い段階から準備していました。ここではパチスロのZEEG筐体で培ったプロジェクターのノウハウが生きています。視覚的な物珍しさだけではなく、ゲームの進行を補助する実用性も兼ね備えているので、ディーラーの役割を半自動化できます。開店のギリギリまで精度を高めて、計4台を投入しました。

──客層は狙い通りですか。
伊藤 概ねそうですね。来店が多い年代は20代後半から30代前半の方。9割近くが男性です。複数人で来店されるお客様が大半で、お一人様は3割くらい。アプリで遊び方を知って、当店で店舗デビューしたという人は3割程度だと認識しています。初心者講習会の受講者数は日平均で10人弱。全体で見れば幅広い年代の方を集客できています。
德村 第1回目の公式大会を開催したときに、決勝に残った8人中6人がこれまで店舗で遊んだことがない人たちでした。店舗でのプレイ経験がある人もそれなりに参加されていたはずですから、非常に興味深い結果です。アプリを機に始めた人が、どんどん上手くなって有名なポーカープレイヤーになる。そんな風になると、アプリに箔がつきそうです。

将来顧客を生み出す

──その他の領域はどのような進捗ですか。
伊藤 Webサイトでは純粋にポーカーの魅力が伝わる情報を発信しています。今後も記事や動画コンテンツを充実させていきます。サービス同士の連携も重要ですので、サイト内のマイページで店舗の大会実績や貯チップ量を確認できるようにしています。ゆくゆくはアプリの戦績もここで確認できるようにしたいですね。
德村 トムスさん、KADOKAWAさんと組んだメディアミックスの「HIGH CARD」という作品は順調に進行しており、随時情報を公開していきます。今後の情報発信を楽しみにお待ちいただければと思います。

──アニメーションは子どももすぐに馴染めそうです。
伊藤 テキサスホールデムの認知を広め、文化として根付かせるためには、ターゲットを20代や30代に絞っていては達成できません。もっと大学生や高校生、ティーンエイジャーにまで響かせたい。「ちはやふる」「ヒカルの碁」「けいおん!」がそうだったように、無関心層を振り向かせるにはアニメーションで展開することが効果的だと思っています。
徳村 遊び方や世界観を分かりやすく伝えられるアニメーションは、ファン人口を増やすトリガーになる。アプリとコラボする親和性も高いと考えています。
伊藤 あとは麻雀のMリーグのように、「観る文化」もつくりたい。自分でプレイするよりも、ほかの人のプレイを解説付きで視聴するほうが好きという方もいらっしゃいます。アメリカでは世界規模の大会がテレビで放映されている。当社だけで文化を築き上げることは難しいので、多くの企業様にご参画いただきながら、全国・全世代にわたって盛り上げていきたいですね。

プレイだけでなく観る文化も創りたい

※『月刊アミューズメントジャパン』2022年1月号に掲載した記事を転載しました


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